カンボジア旅行記~その5~

「湖上にて」

 トンレサップ湖という湖がある。雨季には湖の面積が大きくなって、乾季には面積が小さくなるという、不思議な湖。地図で見ると面白かったりする。

 雨季には半端なく水位が上がるので(8メートルって言ってた)、現地の家は極端な高床式の家。雨季には家だけが浮かんで見える。通称フローティング・ビレッジ。

 今日はフローティング・ビレッジのツアーの話。

 現地には特定の産業があるわけではない。住民の人々は、男性は漁、女性はボートの漕ぎ手といった風に生活費を得ていた。

 「観光客を手漕ぎボートに乗せて、その収入を現地の人の生活費に充てる。」というビジネスモデルは、国連の支援機関によって考案されたらしい。女性が一人で漕ぐボートに乗って、ジャングルとビレッジを40分程度まわるツアーに参加した。

 高床式の家々を見て、ジャングルの中をしばらく進むと突然あたりが開けて、多くのボートが止まっている場所に出た。十数隻のそのボートたちは、それぞれ飲み物や軽食といった物を売っていた。

 僕が乗ったボートは、そのうちの一隻の隣に止まった。そこに乗っている少年が僕に話しかけてきた。年齢がどうだとか、どこから来たのかとか、他愛のない話。

 商品を買ってほしいというのは目に見えて分かっていた。今回の旅行では、あまりお金を持っているわけではなかったので、買うつもりはあまりなかった。その旨も伝えた。そうしたら、少年はこう言った。

「漕ぎ手の人にお礼として買わなくていいの?」

 この言葉には、さすがにこたえた。漕ぎ手の女性は、小さな赤ん坊を抱えながら僕のボートを漕いでいた。身なりの様子からも、決して裕福でないことは容易に想像できた。

 結局僕は買わなかった。買うべきなのかわからなかった。漕ぎ手の人への報酬はもうすでに払っている。また、ここで物を売っている船が、国連の支援構想の一環ではないことは想像に難くない。

 それは分かっていても、頭の中には昨日の「いちどる」の少年たちがいた。だからどうしても悩んでしまって、結局どうすればいいのか分からなかった。

 国連が提案したというそのビジネスは、本当に住民が十分なお金を得るために機能しているのだろうか。事業の評価は適切に行われているのか。ボートの上の少年は、もしかしたら本当にどうしても生活に困窮しているのかもしれないし、必要な生活費は得れているうえでさらに稼ごうとしているのかもしれない。

 色々なことが頭に浮かんでどうしようもなかった。今日の文章も、うまくまとめることができなかった。

 

 彼らの生活の現状はどうなのか。支援は適切だったのか。開発支援の難しさの一端を目にした気がした。