カンボジア旅行記~その3~

「いちどる」

 書くのも読み返すのも凄く辛い。それでも、忘れちゃいけない。

 はがき売りの少年たちの話。

 今回の旅行先で買ったものの一つに、写真はがきがある。アンコール遺跡群が写されている数枚組のはがきだ。アンコール遺跡群を巡った日に、路上にいた少年たちから買ったものだ。

 レストランの駐車場に彼らはいた。小学校低学年から中学年程度だと思われる子供たちが、5~6人ではがきや玩具の笛を売っていた。僕らを見つけると、彼らは僕らを囲んで商品を押し付けながらこう言った。

「いちどる。」

 日本語でこう言い続けるのだ。おそらく、この意味の言葉だけは数か国語で話せるのだろう。たどたどしい日本語で彼らはその言葉を唱え続けた。

 ショックだった。カンボジアで児童労働が多いことは知っていた。経済的に発展途上にある国である以上、そこにいる人々が貧しいことも十分に理解しているつもりだった。あくまで知識としては。

 彼らの目は、水にぬれた硬玉のように光っていた。いつかの日に、ユニセフ募金のポスターで見た涙目の少年が、あの時は確かに目の前にいた。

 同伴者の先輩はこう言っていた。

「ああいう物売りの少年から物を買っても、結局は元締めに全額取られてしまうから意味がないんだ。だから、絶対買っちゃだめだよ。」

 きっとその通りだと思う。それでも、彼らが一つも売ることができなかったら、それはそれで彼らは生きていくことができないと思った。だから僕は、そのはがきを買った。無論、先輩は苦い顔をしていた。

 あの選択が正しいのかなんてわからないし、きっと絶対的な答えはないと思う。でも、考え続けなければならないと思った。

 彼らが元締めに管理されることなく、自分でまっとうに働いて生活をすることができるようになるために、僕にできることがあるのだろうか。

 それを考え続けることが、当たり前のように生を享受し、物事を考えることができる時間さえ与えられている「幸福な」僕のすべきことなのではと思った。これはきっと、今回の旅行が僕に課した一生の宿題だ。そう思っている。

 

このはがきは、あの日を忘れないために買ったものだ。今日はこれでおしまい。